2020年も、多くの佳作から1年を乗りこえる元気をもらいました。コロナ禍のせいで、例年に比べその数がかなり少ないのは仕方がありませんが。さあそれでは、絶対に見逃せない作品をいくつか見ていくことにしましょう。

『スモール・アックス:ラヴァーズ・ロック』

イギリスのスティーブ・マックイーン監督が、『スモール・アックス』アンソロジーを通して新作を5本も提供してくれたんです。信じられませんよね。このシリーズは西インド系移民コミュニティについての話なのですが、『ラヴァーズ・ロック』は、一見するとハウスパーティーについての話のように見えます。コロナ禍でパーティーに行けないことを寂しく思っている人のために、ハウスパーティーの日々をノスタルジックに描いた作品のような印象を受けます。

ところが、『スモール・アックス:ラヴァーズ・ロック』は、単にハウス・パーティーの話に留まらないのです。ドレスアップした人たち、酔っぱらった人たち、そしてお互いに見知らぬ人たちが、人種差別に悩まされる日常を一瞬だけでも忘れようと、みんなで一緒に歌うのです。

『ディック・ジョンソンの死』

『ディック・ジョンソンの死』ほど注目を集めた映画も、最近珍しいのではないでしょうか。物語は、ジョンソンの年老いた父で、生え抜きの心理学者だったディックを追っています。ディックは2017年にアルツハイマー病によく似たある種の精神疾患を患うようになります。

ジョンソンは父の人生の末期を記録しようと決意し、父のそばで過ごす時間を記録すると同時に、ナイフで刺される、大きなコンテナにぶち当たる、というふうに、父の死にまつわる架空のシナリオをいろいろと想像するようになります。『ディック・ジョンソンの死』は、愛する人を失うとはどういうことなのかを描いた傑作だと思います。

『ファースト・カウ』

ケリー・ライヒャルトは、気配りや観察力に優れ、登場人物の動機や感情を通して場所の感覚を呼び起こすことができる監督です。『ファースト・カウ』の舞台は1820年代、主人公は遊牧民の料理人であるクッキーです。パシフィックノースウエストにやって来たクッキーは、中国人の孤独主義者キング・ルーと親しくなります。2人は力を合わせ、社会的地位や経済的地位の上に立とうと試みます。